外注先設備は自社設備!?
ものづくり製造業において外注を活用することは一般的です。内部製作では納期が間に合わない場合や、内製できないものは外部調達することもあるでしょうし、納期がネックとなる機会損失を避けるために戦略的に外注を利用することは重要です。しかしかつて、とても驚かされた海外サプライヤーがいました。展示会で製造サプライヤーとして出展していた企業との取引開始を想定し、現地工場へ見学に行ったところ、展示会やパンフレットで紹介されていた設備が見当たりません。理由を聞いたところ、「外注工場の写真です。そちらに設備はあります」との回答。資本関係などのある関連会社なのかと思いましたが、純粋に別資本の外注工場でした。その海外サプライヤーにとっては調達可能な外注設備は、自社設備も同然との認識だったようで、そのことに対して顧客への報告責任があるなどとは露ほども考えていなかったのです。国が違えば商習慣が異なり、認識にも差が発生することは分かっていたつもりでしたが、改めて海外サプライヤーの選定の難しさを実感しました。
調達が得意な商社サプライヤーは少数
とはいえ、PRONICS日本法人が取引している海外サプライヤーの中には、一切の設備を保有せずに調達に特化した商社サプライヤーもあります。そのサプライヤーは懇意にしている同業者からの紹介でした。同業者から「しばらく使っている外注がなかなかいい。部品加工がうまい」と世間話をしたことがきっかけで、紹介してもらったので、簡単な金型部品から依頼したところ口コミ通りの加工品質でした。取引後すぐに、そのサプライヤーの責任者が来日するというので面談したところ、自社では一切設備を保有せず、100%外注で部品調達をしている商社サプライヤーだったことが発覚。品質の担保が難しい商社サプライヤーでも、外注管理がきっちりできる責任者で、ローカル外注同士の競争原理が働けば、品質を保つことができる好事例となりました。今では、こちらが手こずると想定していたような金型の主要パーツも納期通りに納品され、T1で検収OKとなるほど実力を発揮してもらい、「よい部品屋さんを見つけられてよかった」と喜んでいます。そんな良質なサプライヤーも、一時、3部品ほど品質が落ちたことがありました。それまでの長い取引では珍しいことだったので、再製作の依頼とともにクレームを入れると、最短で部品を再納品してくれ、その後は品質が著しく落ちるようなことは今のところありません。品質低下の原因は外注の加工技術者が変わったことで起こったとのことでしたが、そこはローカル同士うまくプレッシャーをかけて交渉してくれたようです。結局は、商習慣や文化の差異を超えて信頼できるサプライヤーを見つけられるか否かが、海外調達の肝であるという原理原則なのだと思います。
外注先に実力を発揮させるのも難しい
日本企業には「1度でも信用を失うと2度目はない」との信用至上主義的な考え方が浸透していますが、海外サプライヤーにはその意識が比較的希薄な場合が多いように思います。PRONICSの強み「スピードとネットワーク」でもご紹介していますが、まず「実力のある海外サプライヤーを見つける」ことが難しく、2番目に「海外サプライヤーの実力通りに、実力を発揮させる」ことが難しいのです。明確に「儲けさせてくれる」と外注に認識され、「ちゃんとしたものを納品しないと損だ」とのプレッシャーを感じさせなければなりません。当たり前のことのようですが、文化や表現、商習慣の異なる海外サプライヤーへプレッシャーをかけるのは意外に難しく、少し気を抜くと同じサプライヤーとは思えないほど品質が落下するようなケースもあります。
前項までの内容を勘案すると、海外サプライヤーの大風呂敷を鵜呑みにせず、根本から疑ってかかりながらも、品質を着実に確認してサプライヤー選定していくという非常に慎重な進め方を求められるわけですが、ところが、慎重さが必要でありながら、同時にスピード感が必ず求められます。中国企業や韓国企業と比べて決定までに時間が掛かりがちな日系企業は、実力のあるサプライヤーにとっては「動きが遅く、それなりの対応でいい」との評価に落とされがち、それこそ実力を発揮させられない状況に陥るのです。実力があるサプライヤーほど人気があり忙しいため、動きが遅かったことで「相手にされなくなって、見積もりも取れなくなってしまった」という日系企業の話も聞きます。自分達の当たり前が、決して当たり前ではない取引相手とは思いがけないトラブルにもなりかねません。